大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和38年(オ)334号 判決

上告人

被上告人

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人中川宗雄の上告理由第一点および第二点について。

原判決は、挙示の証拠により、「控訴人(被上告人)および被控訴人(上告人)は、いずれも田川郡川崎町に居住し、同じく田川高等学校に通学しているうちに相思相愛の仲となり、同校を卒業後昭和二八年三月二二日頃田川市西区所在松葉屋旅館において互に将来夫婦となることを約して肉体関係を結んだこと(両名共当時成年に達していた)、その後間もなく被控訴人は明治大学商学部夜間部に進学し、控訴人は田川郡川崎町の自宅にあつて、互に被控訴人が卒業し就職した暁に夫婦として一家を構える日の来るのを待望しながら日々を送り、この間に互に慕情を書綴つた文通を交していたので、控訴人はその後他から申込のあつた縁談も断り、一途に被控訴人に想を寄せ、被控訴人も亦休暇で川崎町に帰省するとその大半を控訴人方で過し、控訴人と情交を重ねていた。そして控訴人及び被控訴人の両親は、本人同志が互に将来婚姻の約束をしていることを知つており、被控訴人が大学卒業後就職すれば婚姻させてもよいとの考で当事者間の右の関係を黙認していたし、近隣の者も亦控訴人と被控訴人が将来夫婦となるであろうことを噂していたのである。ところが被控訴人が昭和三二年一月頃から東京において訴外丙と懇意になり、遂に同女と情交を結び、同女と右の関係を続けながら一方では控訴人に対し屡々平との関係を生ずるに至つたことを詫びると共に学資の一部送金方を懇請した手紙を出していたので、事の真相を知らない控訴人としては、被控訴人と丙との関係を清算して貰い度いばかりに昭和三二年夏頃から被控訴人が右大学を卒業する昭和三三年三月頃まで数回に亘り合計金六万円を被控訴人宛送金したのである。しかるに被控訴人は、昭和三三年三月大学を卒業し就職するや同年四月丙と結婚同棲し、控訴人に対し文通を断ち、被控訴人の住所を秘していた。一方、控訴人は被控訴人を諦めきれず、漸く一年後被控訴人の住所が判明したので昭和三四年四月上京し、被控訴人に会つて被控訴人の愛情を取戻すべく申入れたが、被控訴人は遠曲にこれを断り、遂にその頃控訴人と夫婦となる意思のないことを明示した。」旨の事実を認定し、右認定事実により、「本件当事者は、当初肉体関係を結ぶに当つて、真面目に婚姻予約を締結していたことを認めることができる。」旨判示したものであつて、たとえ当時上告人は高等学校卒業直後であり、なお学業を継続しなければならない状態にあつたとしても、原判決の右判示は肯認できなくはないから、原判決に所論の経験法則違反の違法があるということができない。そして、以上の事実関係の下においては、たとえ当事者間において結納の取交し、仮祝言の挙行等の事実がなくても、上告人において被上告人に対し、上告人の右婚姻予約不履行により被上告人の蒙つた精神上の苦痛による損害を賠償すべき義務があるとする原判決は相当であるから、原判決に所論の法令解釈適用の誤りはない。論旨はすべて採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

(上告理由省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例